| お食事処 |
其の九 アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼ (Eichsfelder Kälberblase)

さて本格的にドイツのど真ん中の美味いもの、アイヒスフェルトの名物を紹介してゆきましょう。
すでに「お食事処」でソーセージを取り上げてきましたが、アイヒスフェルトの名物もまたドイツらしくソーセージです。
ソーセージはよくドイツが生んだ最高の保存食ともいいます。
その言葉どおりアイヒスフェルトのソーセージは、テューリンゲン風焼きソーセージのように焼いたり、
ミュンヘン風ソーセージのように茹でるでもありません。
アイヒスフェルトの名物ソーセージ「アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼ (Eichsfelder Kälberblase) 」は、
またの名を「アイヒスフェルダー・フェルトキーカー (Eichsfelder Feldkieker) 」ともいいますが、
焼きもせず、茹でもせずにそのまま食べるタイプのソーセージ。
わたしたち日本人の感覚でいうと、サラミソーセージが最もイメージしやすいことでしょう。
(ドイツでは一般にサラミタイプのソーセージをメットヴルスト (Mettwurst) ともいいます。)
アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼが面白いのは、サラミソーセージのように細長い棍棒のような形をしていないところにあります。

上がアイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼ ご覧あれ。一個単位ではなく、希望の厚さに切っての量り売りもしてくれます。
ご覧のようにコロンとした洋ナシの形をしているのが特徴。
アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼが洋ナシの形をしている秘密は豚の腸にではなく、仔牛の膀胱に挽き肉を詰めるから。
名は態を表すといいますが、アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼとは、文字どおり「アイヒスフェルトの仔牛の膀胱」なのです。
(現在は仔牛の膀胱の代わりに人工の皮も使われているようです。)
屠殺した豚の肉を挽き肉して、塩、胡椒などの香辛料で味付けし、よく洗浄した仔牛の膀胱に詰めてゆきます。
この時の注意は、絶対に気泡を一緒に膀胱の中に密封してはならないことです。
肉の詰まった膀胱を乾燥した風通しのよい日陰に干して約半年かけて熟成させます。
熟成しあがったケルバーブラーゼは冷蔵庫に入れなくとも、優に一年は保存がきくとのことです。
アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼのまたの名をアイヒスフェルダー・フェルトキーカーといいますが、
これは農家が納屋にケルバーブラーゼを熟成のために干し、それを畑から納屋の庇と風通しのための
隙間からのぞいてみえたことに由来しています。
長々と説明していても仕方がありませんね。
早速、アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼを試食してみましょう。
食べ方をドゥダーシュタットの地元の人に訊いてみました。
用意するものはアイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼ、ライ麦のパン、ラード(人によっては、ガチョウの脂といいます)。
ライ麦のパンを食べやすい厚さにスライスします。その上に好みでラードか、ガチョウの脂をたっぷり塗ります。
そして美味しくいただく秘訣は、サラミのように薄くスライスしないこと、ケチケチしてはいけないということ。
「親指の太さと同じ厚さに切れ!」と地元の人は言います。
わたしたち日本人には、親指と同じ太さのサラミソーセージはお腹に堪えますので、いくらか薄目に切ってもいいでしょう。
脂肪が輝きはじめます。
皮(仔牛の膀胱)を取り除いて、ライ麦パンの上にのせます。
空気に触れて、アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼの脂肪が少しづつ溶けはじめ、表面が輝きだします。
それとともに熟成された豊かな香りがわたしたちの鼻腔に訪れます。
この香りを嗅いだら、食欲をこれ以上押えつけることなどできません。
カブリと齧りついてみましょう。口の中で独特の豊かな香りとともにケルバーブラーゼが溶けてゆきます。
一枚平らげたら、もう一枚食べたくなる逸品です。
アイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼはアイヒスフェルトが生んだ美食にして、アイヒスフェルトの生活の知恵が詰まった最高の保存食。
ゲッティンゲン市内の肉屋さんでも購入できますので、一度お試しください。
(2002年10月13日)
その道のプロにお話しをうかがいました。
後日、ドゥーダーシュタットの地元紙アイヒスフェルダー・ターゲブラット (Eichsfelder Tageblatt) にこのホームページが紹介されたことが縁で、
ドゥーダーシュタットのホテル・ツム・ローヴェン (Hotel zum Löwen) の支配人のオットーさんにアイヒスフェルダー・ケルバーブラーゼについて
改めてお話しをうかがう機会がありました。
美味しいケルバーブラーゼを作るには、元となる豚がまずいい豚であることが不可欠。
豚を天然の穀物などのいい餌で飼育し、200キロぐらいまでに太らせます。
冬の足音の聞こえる秋の日に豚を屠殺します。
肉は挽き肉にし、塩、胡椒、にんにくで味付けをします。
挽き肉はそのまま温かい状態で仔牛の膀胱に詰められます。これは熟成を促進させるためだそうです。
人工の皮も使われていると書きましたが、一昨年(2000年)にドイツでも BSE (牛海綿状脳症)が問題となったために人工の物が使われました。
しかし BSE も収まった現在では元通り100パーセント仔牛の膀胱が使われているのだそうです。
これを上記のとおり、風通しの良い日陰で半年ほどかけてじっくり熟成させます。
この時の気温が8〜12℃、湿度が80〜90パーセントということです。
(2002年10月24日)
関連のサイト:
取材・撮影に協力していただいたドゥーダーシュタットの肉屋、クロップナー (Klöppner) さんのサイト: http://www.fleischerei-kloeppner.de
食に詳しい支配人オットーさんのいるホテル・ツム・ローヴェン(Hotel zum Löwen)のサイト: http://www.hotelzumloewen.de/