| お食事処 |
其の拾三 春のビール (Bier zum Frühling: Einbecker Mai-Ur-Bock)
若葉を象徴するかのような緑のパッケージ。
久しぶりのお食事処の更新となります。
その間、ドイツもいつのまにか春になっていました。
暖かい季節を向かえ、ドイツのど真ん中より春のお酒を皆さんに一献。
昨年の初冬にデンマークのクリスマスビールをご紹介しました。
このようなビールは、セゾンビア (Saisonbier) と呼ばれる、その季節しか飲むことのできないものです。
日本でいう季節限定醸造ビールといったところでしょう。
初冬にクリスマスビールをご紹介したので、今回のお食事処、春にふさわしいビールを皆さんにご紹介します。
この春のビールは3月から5月にドイツのど真ん中で出回り、
町中の酒屋さんでこれを見かけると、わたしなどは毎年春が来たことを実感させられます。
春の訪れを告げるこのビールは、一般にマイボック (Maibock) という種類に分類されます。
マイボックの「マイ」は、英語のメイ (may) 、ドイツ語のマイ (Mai) 、つまりわたしたちの暦でいう皐月、五月であります。
五月は、日本に限らず、ドイツでも新緑の映える最も美しい季節。
その五月に飲まれるのが、このマイボックです。
マイボックのビールはドイツ国内のあちこちの醸造所やビールメーカーで醸造されていますが、
「お食事処 其の参」でご紹介したアインベッカー・ブラウハウス社のマイボックを取りあげてみましょう。
というのも、マイボックの故郷はアインベッカー・ブラウハウス社のあるアインベック (Einbeck) の町なのです。
マイボックの「マイ」はドイツ語の五月でしたが、残りの「ボック」はアインベックの「ベック」、
「ベック」が訛って「ボック」に至ったという経緯です。
アインベックで作られたビール、またはアインベック風に醸造されたビールだから、(ベックが訛り)「ボック」、
そして5月用のボックビールだから、「マイボック」という次第。
さらに由緒正しいこともあり、アインベッカー・ブラウハウス社のマイボックには、「ウア( Ur: 元祖)」の冠が付いて、
アインベッカー・マイ・ウア・ボック (Einbecker Mai-Ur-Bock) 。
さて、長い前置きはそろそろ無用、せっかくの暖かい春ということもあり、マイボックを外に持ち出してみました。
塩付きブレーツェルを肴に野外でマイボックをいただきました。
栓を抜いてグラスに注ぐと、黄金色のビールとはちがう、マイ・ウア・ボックは赤みがかった色をしております。
口に含めば、モルト(麦芽)のまろやかなアロマと甘い味が広がります。
そして次にすしりと重たい味覚が体を襲うことでしょう。
これまでにご紹介した北ドイツ地方のピルスナービールの苦味をパンチに例えるなら、
このマイボックは重たいボディーブローといったところでしょう。
それもそのはず、マイ・ウア・ボックのアルコール度数は6.5パーセントと普通のビールよりも高く、
重たいボディーブローの正体はこのアルコール度数だったのですね。
さらに別の醸造所のマイボックでは7パーセント近いものもあります。
しかし、こういったことも春にふさわしいビールの所以ではないでしょか。
うららかな春の日ざしの下、このアルコール分の多いマイボックでほろ酔い加減になり、日なたぼっこするのは極楽としか表現できません。
(マイボックのようなビールは真夏には、べたべたした感じが残り、きっと不向きにちがいありません。)
さぁ、皆さんも春の週末に朝っぱらからマイボックを片手に庭や野に出てみてはいかがでしょうか。
朝っぱらからビールを頂くのもドイツの週末の醍醐味でもあります。
参考文献: 渡辺純 著 「ビール大全」(文春新書)
Berry Verhoef 著 "BIER Enzyklopädie"
(2003年3月30日)